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アルカリ助剤を使った洗濯は効果あるの?


■アルカリを使った洗濯はどの程度効果があるのか?

 環境問題への関心の高まりから、重曹やクエン酸など、洗剤を使わない洗浄、洗濯方法がブームになっています。
 炭酸塩やセスキ炭酸ソーダ(セスキ)などのアルカリ剤は、ある程度濃い濃度で使うと、タイルや家具についた汚れを落とすことができます。
  酸やアルカリを使った洗浄 (1) セスキスプレー

 洗濯に石けんや合成洗剤を使わずに、アルカリ剤だけで洗うことができれば、トータルで環境負荷を下げることができるという主張があり、もし本当なら、確かにエコロジーにつながります。

 しかし、アルカリ剤だけで洗濯しているという個人のブログは多いのですが、その根拠がはっきりしません。ちまたで販売されている、洗濯リングや洗濯ボールなど、洗剤無しで洗えるとうたう製品も、多くは効果が水洗いと変わらないことがわかっています。
 アルカリ剤だけで洗濯している人は、水だけで洗ったときと比べて、どれくらい効果があるのか調べたことがあるのでしょうか?

 メーカーや、アルカリ剤販売店の主張もはっきりしません。本当に効果があるのなら、きちんと洗浄力試験を実施して、どのような汚れに適用できるのか、水だけに比べてどの程度効果があるのかをデータで示すべきです。
 しかし、彼らの主張は、「昔から使われていた」、「経験から」、「口コミで評判がよい」、「アルカリだから油汚れに強いだろう」などで、科学的でなく、客観性に欠けます。また、販売店なので、仕方がないのですが、メリットばかり強調し、適用範囲や欠点は説明していません。

 ここでは、アルカリ剤を使った洗濯について、いくつかの実験を行い、その効果を検証してみました。

■アルカリ洗浄の原理

 換気扇やレンジ等のひどい油汚れを落とす洗剤には、水酸化ナトリウムのようなアルカリが含まれています。アルカリは油脂を石けんとグリセリンに分解します。また、タンパク質も変質させます。この性質を使って、こびりついた油汚れを落とすことが出来ます。

 「セスキはアルカリなので、油やタンパク質を分解し、石けんなしでも汚れが落ちる」 などと説明していることがあります。

 しかし、よく考えると、疑問が出てきます。水酸化ナトリウムのpHは13以上、手で触れないほどの強アルカリです。でも、セスキのpHは10程度の弱アルカリ性です。pHは、1違うと、10倍の差がありますから、セスキのアルカリの強さは、水酸化ナトリウムの1000分の1以下です。
 また、洗濯用粉石けんの、標準使用濃度でのPHは10〜11くらい、洗顔用石けんのpHも10〜11です。これらと比較してみると、セスキのpH10は、洗浄を期待するには、あまりに弱いアルカリと考えられます。

 セスキに油を溶かす力があるかを実験してみました。実験は、水道水、0.5%セスキ溶液、1%石けん溶液、それぞれに、ゴマ油を1滴加えて、振り混ぜてみました。
 
 
 結果は、写真の通りです。石けんはゴマ油を乳化して、白く濁っていますが、水道水とセスキは、油を乳化することはできません(表面に浮いたままです)

 炭酸塩などのアルカリ助剤は、石けんの助剤として使うと、石けんの洗浄力を高めてくれます。しかし、ここで誤解してはいけないのは、アルカリ助剤は石けんの力を高めるのであって、アルカリ助剤そのものが、油を溶かすわけでも、洗浄力があるわけでもないということです。
 
■洗浄力試験

 洗浄力試験をしてみました。汚れとして、口紅と牛脂、そして靴下を使いました。
 口紅は、汚れとしては厳しいもので、洗剤や石けんの洗浄力を比較するのに適しています。
 一方、牛脂は、動物性脂肪であり、アルカリによる洗浄が理論通りなら、セスキでも落ちる汚れと考えられます。なお、汚れ落ちがわかりやすいように、牛脂は色素で着色しました。

 口紅、牛脂は、シャーレを使って、布にこすりつけました。それらの汚染布は4つに切って、
  (1) 対照(洗わない)
  (2) 水洗い
  (3) セスキ洗い
  (4) 石けん洗い
を行い、洗った後、つなぎ合わせて、洗浄力を比較しました。

 なお、洗濯は全自動洗濯機(日立 NW-7PAM)を用いて、水道水(水温10℃)30リットル、セスキは20g、粉石けん(炭酸塩35%入り)は25g使用しました。洗濯時間は5分間です。

 まず、セスキ洗いの効果です。
 
 
 口紅汚れは、石けんはかなり落ちていますが、セスキは水洗いと差がなく、ほとんど汚れは落ちていません。
また、牛脂についても同様で、石けんは、よく汚れが落ちているのに対して、セスキと水洗いは、どちらも、ほとんど汚れは落ちていません。ゴマ油の実験と同じで、セスキは油を分解したり、乳化したりする力は認められませんでした。

 次に、靴下を洗った結果を見てみましょう。結果を見ると、この通り、セスキで洗っても、水洗いと差は認められませんでした。

洗濯前 水洗い、セスキ洗い後
 
 
 一方、石けんで洗った場合は、明らかに水洗いよりは汚れが落ちています。

洗濯前 水洗い、石けん洗い後
 

■部分洗いの効果は

 セスキ洗いでは、思ったほどの効果は認められませんでした。もしかしたら、セスキの濃度が薄いために、アルカリの効果がなかったかもしれません。
 それでは、襟や袖などの部分洗いの効果はどうでしょうか? 0.5%セスキ溶液をスプレーボトルに入れて、汚染布にスプレーして、10分間置いた後、水で洗濯してみました。
 比較のため、石けん液(3%液体石けんと、1%炭酸塩入り)を同様にスプレーして、洗濯しました。
 
 まず、セスキスプレーの結果ですが、セスキ洗いと同様に、口紅、牛脂ともに、セスキスプレーは、水洗いと差はなく、どちらも汚れは落ちませんでした。

 
 
 石けんスプレーの場合はどうでしょう。厳しい汚れである口紅については、差は小さいですが、水洗いよりは汚れは落ちています。一方、牛脂の場合、効果は明かです。写真の通り、石けんスプレーは、石けん洗濯と同じくらい汚れが落ちています。
 
 

■皮脂汚れ

 どうも、セスキは以上のような汚れのひどいものには効果がなさそうです。
 セスキ洗いは、汚れの軽いもの、一度だけ使ったタオルや、一度袖を通しただけの衣類など、ほとんど汚れていないもの、見えない汚れに効果があるということのようです
・・・・・つまり、本来洗う必要がないもの、他の洗濯物と一緒に洗えばいいようなものを、わざわざ洗うには有効のようです・・・・・

 見えない汚れの洗浄力試験をどのように行うのか?困った問題ですが、ここでは、皮脂汚れに絞って洗浄力試験を考えてみました。皮脂汚れには、脂肪酸が含まれているので、アルカリ剤だけでも落とすことができそうです。ただし、皮脂汚れを付けたまま長時間おくと、変色したり、固まって落ちなくなるので、新しい皮脂汚れに限ります。

 洗浄力試験は、セスキではなく、重曹をお湯に溶かした重曹熱分解水を使いました。詳しくは、こちらを参考にしてください。
  重曹電解水と重曹熱分解水

1.洗わない
2.水道水で洗った
3.重曹熱分解水で洗った
4.石けんで洗った

 皮脂汚れは、目で見てもわかりにくいので、色素で染めてみました。
 この結果から、石けんで洗うのが一番良く落ちていますが、重曹熱分解水も水洗いに比べて落ちていることがわかります。


■タオルの汚れ

 洗面所で使ったタオルを、水道水と重曹熱分解水につけ置きし、押し洗いした後の、水の汚れを比べてみました。

左:重曹熱分解水で洗った水
中央:水道水で洗った水
右:水道水のみ

 重曹熱分解水で洗った水の方が濁っています。濁度計で比較したところ、約2倍の濁りでした。

 このタオルを、すすいで乾かした後、4人のパネラーを使って、@目視での汚れ落ち、A臭い、B風合い(肌触り)を比べてみました。

目視 臭い 風合い
アルカリ 水道水 アルカリ 水道水 アルカリ 水道水
  アルカリ:重曹熱分解水

 結果は
 (1)目視による汚れは、どちらも確認できなかった
 (2)臭いは、アルカリ(重曹熱分解水)で洗った方がよく取れている
 (3)風合い(肌触り)は、アルカリ(重曹熱分解水)で洗った方がごわごわしていた


■布ナプキン洗い

 多くの布ナプキン販売店や、布ナプキンを使っている個人のサイトで、布ナプキンの洗濯にセスキをすすめています。
 確かに、アルカリは新鮮な血液汚れには効果がありますが、本サイトでは、布ナプキンを洗って、血液が他の人に触れる機会を増やすことは、感染症の拡大につながるおそれがあるため、慎重な姿勢をとっています。
 セスキが布ナプキン洗いに効果があるかどうか以前に、布ナプキンを使う意味を考えてみてください。
  布ナプキンの安全性


■洗浄力試験のまとめ

 水洗い  アルカリ洗い 石けん洗い
× ×
タンパク質
油(油脂) × ×
鉱物油 × ×
口紅 × ×
ケチャップ
コーヒー
襟あか × ×
下着のシミ
靴下 × ×
下着
Yシャツ × ×
Gパン × ×
汚れていないタオル 
汚れていない衣類
汗の臭い
風合い(肌触り) ×
値段 ×

 以上の結果から、アルカリを使った洗濯は、
 (1)水で落ちる汚れは、アルカリ剤を使わなくても落ちる(使う必要がない)
 (2)油、泥などのひどい汚れは、アルカリ剤では落ちない
 (3)皮脂汚れや汗の臭いには、アルカリ剤を使った方が、水よりも効果的
 (4)アルカリ剤を使うと、風合い(肌触り)が悪くなる

 アルカリ剤を使った洗濯は、皮脂汚れが付いたタオルや、汚れていないTシャツなど、限られた洗濯物については、水だけで洗うよりは効果がありますが、日常的に洗っている、Yシャツ、ズボン、靴下、汚れの付いた衣類の洗濯には使うことができません。
 つまり、汚れていないものばかり集めて、他の汚れ物とは分けて洗濯する必要があります。そもそも、洗濯する必要のない、汚れていないものを洗う習慣は、反エコであることは間違いありません。また、少しずつ何回も洗濯するより、汚れ物をまとめて1回ですませるのが、最も合理的です。


■アルカリを使った洗濯はエコか?

 石けんや合成洗剤を使わずに、アルカリだけで洗えるなら、環境負荷も下げることができますが、上で述べたように、アルカリだけで洗える洗濯物は限られており、汚れ物と分けて洗うなら、まとめて石けんで洗った方が、合理的です。

 硬度が高く、石けんを大量に使わないと洗濯できない地域では、石けんをうまく使えないで失敗するより、アルカリ洗濯のほうがうまくいく場合もありますが、このような硬度の高い地域では、軟水器の導入を考えた方が有効です。
 大量の石けんとアルカリ剤を使うより、軟水器を使って、石けんの使用量を減らほうが、はるかにエコな洗濯ができます。
  軟水はエコロジー&エコノミー

 「汚れたら洗うから、着たら洗う」に代表されるように、近年、過度の清潔志向の習慣が広まりつつあります。このような習慣は、無駄な洗濯回数を増やし、電気、水も多く消費する生活様式です。汚れていないものを洗うアルカリ洗濯は、この習慣を肯定、助長するのではないでしょうか? 
 アルカリ洗浄が、トータルでエコかどうかは、一人一人の意識と、生活様式によります。こちらのページを参考にして、トータルでエコな生活を実践しているかどうかを確かめてみてください。
  アライグマが地球を汚す