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理想の洗顔



手作り石けんと軟水という、石けんライフを豊かにしてくれるアイテムがそろったら、今までの洗顔はどのように変わるのでしょうか?

■皮膚の仕組み

まず、皮膚のしくみと、石けんで洗顔することで、どのようなことが起きているかを考えてみましょう。
皮膚表面には、皮脂腺から分泌される皮脂と汗腺から分泌される汗とが混ざり合った天然のクリームである皮脂膜が形成されています。皮脂膜は皮膚の乾燥を防ぎ、柔軟性を与え、細菌などの感染を防ぎます。皮脂膜の成分は次のようなものです。

皮膚の構造 皮脂膜の組成


皮脂膜の成分のうち、@遊離脂肪酸は石けんにも含まれる成分です(石けんは脂肪酸とナトリウムがくっついたもの)。遊離脂肪酸は皮膚を弱酸性に保つ働きがあります。Aトリグリセリドはグリセリンに3つ脂肪酸が付いたもの。オリーブオイルやラードのような油脂と同じものです。Bモノ・ジグリセリドは、トリグリセリドから脂肪酸が1つか2つ外れたものです。3つ外れたらグリセリンになります。ちなみに皮脂にはグリセリンは含まれていません。グリセリンは水に溶けるので汗で流されてしまいます。Cスクワレンはコレステロールの前駆物質で、サメ肝油に含まれることでも有名。Dロウエステルは脂肪酸と高級アルコールのエステルで、ホホバオイルやミツロウにふくまれています。


■洗顔に求められるもの
皮膚は、ほこり、老廃物、化粧品、細菌、汗、酸化した脂質などで汚れるので、洗顔によって汚れを落とします。
理想の洗顔は、@皮膚に刺激の少ない洗浄剤を使って、A皮膚にとって異物である汚れだけを落として、B大切な皮脂膜を残すといったものです。しかし、実際の洗顔では、なかなかこのようにうまくはいきません。

洗顔前

洗顔後

汚れだけ取れて、皮脂膜はそのまま



■純石けんと水道水での洗顔

純石けんと水道水で洗顔した場合は次のようになります。
純石けんは洗浄力が強いので、汚れを落とすと同時に皮脂膜も落とされます。石けんは皮膚の表面に付着します。水道水には硬度成分(カルシウムやマグネシウム)が含まれています。水道水ですすぐことで、石けんは石けんカスに代わり、皮膚表面に薄い膜を作ります。石けんカスは保湿力がないので、皮膚が乾燥し、つっぱり感が生じます。健康な皮膚なら、数時間後には元通り皮脂膜が形成されますが、乾燥肌の人、皮膚にトラブルのある人は、大切な皮脂膜が取り除かれるため、一時的に皮膚が乾燥したり、外部からの刺激を受けやすくなります。そのため、せっかく石けんで洗顔しても、保湿剤やローション、クリームを使うことになります。
石けんではない合成系の洗浄剤を使う場合、石けんカスはできないので、つっぱり感はありませんが、
界面活性剤は必ず皮膚表面に残ります。合成系の界面活性剤の多くは、生体にとって異物と認識されます。人によっては刺激になり、接触性皮膚炎や、アレルギー性皮膚炎の原因ともなります。また、合成系の洗浄剤に多く含まれる香料、色素、保存料なども刺激になる場合があります。皮膚にダメージのある人は、洗浄剤選びに苦労することになります。

洗顔前

洗顔

純石けんは洗浄力が強いので、汚れと一緒に皮脂膜まで除かれる。皮膚表面には石けんが付着する。

すすぎ

水道水には硬度成分(カルシウムなど)が含まれるので、すすぎの時に皮膚表面の石けんと結合して石けんカスになる。

仕上がり

皮膚表面は石けんカスの膜で覆われる。



■純石けんと軟水での洗顔

純石けんと軟水を使うと、水道水の場合より格段に仕上がりは良くなります。その仕組みは次のようなものです。
軟水は純石けんの洗浄力を高めるので、水道水の場合よりずっと少ない量で洗顔できます。皮膚表面には石けんが付着しています。
次に軟水ですすぐ場合は、水道水の場合と大きく状況が違います。軟水には硬度成分が含まれていないので石けんカスはできません。皮膚表面に付着していた石けん分は軟水に溶けて大部分が除かれます。そのため、水道水ですすいだ場合より、石けんの皮膚への残留はずっと少なくなります。
さらに、皮膚に残った石けん分は、軟水ですすぐときに、濃度が薄まることで加水分解されて脂肪酸に変わります。脂肪酸は遊離脂肪酸や酸性石けんともよばれている皮脂成分の一つです。皮脂成分ですから、生体にとって異物ではなく、皮膚にダメージがある人にも刺激が少ないと考えられます。軟水を使った後は、温泉に入った後のように皮膚がすべすべになる、アトピーが改善されたというユーザの声も、軟水のこのような効能にあると考えられます。

洗顔前

洗顔

水道水の場合と同じだが、軟水は純石けんの洗浄力を高めるので、量は少しでよい。皮脂膜は除かれる。皮膚表面には石けんが付着する。

すすぎ

軟水には硬度成分は含まれないので、石けんカスはできない。皮膚表面の石けんは、脂肪酸に変わる。

仕上がり

皮膚表面は脂肪酸で覆われる。



■手作り石けんと軟水での洗顔

純石けんと軟水で、かなり理想に近い洗顔が実現出来ます。それでは、純石けんに変わって手作り石けんを使った場合はどこまで理想に近づくことができるのでしょうか?
ここで、もう一度皮脂膜の組成について復習してみます。

 @ 遊離脂肪酸
 A トリグリセリド
 B モノ・ジグリセリド
 C スクワレン
 D ロウエステル

これらが皮脂膜の成分です。理想の洗顔に近づけるには、(1)汚れを落として、皮脂膜は過剰に除去しないように洗浄力をコントロールする、(2)洗顔が終わったときに、皮脂膜に近い成分を残す、ことが必要です。実は、手作り石けんと軟水使うことで、この理想に近い洗顔が実現できます。

手作り石けんには過脂肪といって、原料油脂が10%程度残っています。また、グリセリンも含まれているため、純石けんに比べて洗浄力は穏やかです。軟水は石けんの洗浄力を高めるので、純石けんでは洗浄力が高すぎて、洗い方によっては、汚れと一緒に大切な皮脂膜を根こそぎ落としてしまうということにもなりかねません。しかし、手作り石けんの場合は、原料油脂やけん化率、添加材料を変えることで洗浄力は自由にコントロール出来ます。
手作り石けんに含まれている油脂は、洗顔の時は石けんのミセルに閉じこめられていますが、すすぎの時、石けん濃度が薄くなるとミセルがこわれて水の中に放出されます。そして、皮膚に付着します。
そして、洗顔後の肌には、石けん成分である脂肪酸と油脂が残ります。この油脂ですが、手作り石けんの原料には、もともとトリグリセリドが含まれていますが、石けんを作る途中でトリグリセリドはモノ・ジグリセリドに変わります。すなわち、手作り石けんに残って油脂は、トリグリセリド、モノ・ジグリセリドの混合物で、非常に皮脂膜に近い成分なのです。手作り石けんと軟水を使うことで、ここまで理想の洗顔に近づけることができるのです。

洗顔前

洗顔

手作り石けんの場合、純石けんより洗浄力は穏やかで、皮脂を取りすぎない。

すすぎ

ミセルの中に溶けていた油脂が、すすぎの時に放出されて皮膚に付着する。

仕上がり

石けんの脂肪酸と、油脂が皮膚に残る。



■理想の手作り石けん!バランスソープ

ここまで来たらやはり理想の手作り石けん作りに挑戦したくなります。理想とする石けんは、適度の洗浄力で汚れを落とした後、洗顔後に皮脂膜と非常に近い成分を肌に残すことのできる石けんです。
皮脂膜の組成をさらに詳しく調べてみます。皮脂に含まれる脂肪酸組成は次のようになります。

ラウリン酸 (n-C12) 4.4%
ミリスチン酸 (n-C14) 7.8
パルミトレイン酸 12.0
パルミチン酸 (n-C16) 22.7
オレイン酸 17.2
ステアリン酸 (n-C18) 5.7

特徴的なのは、動植物性油脂にはあまり含まれていないパルミトレイン酸が多く存在することです。パルミトレイン酸を多く含む油脂として、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、馬油などがあります。あとは、このような脂肪酸組成に近づけるようにバランス良く油脂を選んでいくことになります。
スクワレンはサメ肝油に多く含まれる炭化水素ですが、これは酸化されやすく、直接石けんに使うことはできません。しかし、スクワレンと構造が似ていて酸化されにくい素材としてスクアランがあります。スクワランは化粧オイルとしても市販されていますが、精製されていないオリーブオイル(エキストラバージンやピュア)を使えば、その中に含まれています。
ロウエステルはホホバオイルに多く含まれているので、けん化終了後にホホバオイルを加えることで手作り石けんの中にロウエステルを残すことができます。
バランスソープは以上のような考えから設計された手作り石けんです。洗浄力、泡立ち、硬さ、肌適正などが高いレベルでバランスがとれている理想に近い手作り石けんです。実際、数十人の方に使ってもらい、そのアンケート調査でも、既存の手作り石けんに比べて高い評価を得ています。



バランスソープのレシピは、「自分だけの石けんを作る本」に公開しています。


バランスソープ(製品)、バランスソープオイルミックスはカドリーサボン様から購入できます