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布ナプキンの安全性  − 布ナプキンをとおして感染症のリスクを考える −


  目 次

布ナプキン
血液媒介性感染症
布ナプキンと感染症
生理用ナプキンは感染性廃棄物
布ナプキンによる感染経路
布ナプキンによる環境汚染
正しい知識を身につけ、正しい行動をすること
布ナプキンの安全な洗い方
布ナプキンの情報を発信している個人サイトの方へのお願い
布ナプキン販売者へのお願い
賢者は歴史に学び愚者は経験に学ぶ




■布ナプキン

 布製の生理用ナプキンが、自然志向やゴミ問題を背景に静かなブームとなっています。販売店の説明によると、「むれない」、「かぶれない」、「かゆみが軽減される」、「紙ナプキンのようにゴミがでないので環境にやさしい」、このあたりまでは確かに布ナプキンの利点と考えられます。しかし、すこし過剰な説明も見られます、「生理痛が軽くなる」、「生理が短くなる」、「冷えが改善される」、このあたりの説明は薬事法に違反する表現ともとれます。さらに、「紙ナプキンは化学物質を使っているから子宮筋腫や子宮内膜症の原因となる」、「オーガニックコットンを使っているので、残留農薬やダイオキシンの心配はない」、「紙ナプキンはゴミになって、燃やすとダイオキシンを発生する」・・・ここまで言い切ると、消費者の不安をあおる悪質なキャッチフレーズとも言えます。
 確かに生理時のかぶれ、かゆみに悩む女性で布ナプキンで改善された方も多くいるようです。また、紙ナプキンほどゴミが出ないのは環境問題にはプラスと考えられます。
 しかし、布ナプキンにも当然欠点はあります。最近の紙ナプキンは高性能の高分子吸収体を使っています。高分子吸収体は自重の何十倍から何百倍もの水分を吸収しゲル状(ゼリーのようなもの)に固まるので、押しても水分がしみ出すことはありません。また、使用後は折りたたんで通常燃えるゴミとして処理されます。一方、布ナプキンは吸水性能は紙ナプキンに対して著しく劣るので、取り替え回数が多くなります。紙ナプキンのように立体成型しているものが少なく、漏れだしてショーツやアウターに血液が付着する可能性が高くなります。そして、布ナプキンは繰り返し使用することを前提としているので、紙ナプキンにはない「洗う」という行為が必要となります。洗う前に布ナプキンはバケツなどにつけ置きされ、血液を含む排水は下水など公共水域に流されます。
 つまり、紙ナプキンを使っている場合にはなかった、多量の血液がついたナプキンをバケツにつけ置きする、そして洗うという行為により家族などが触れる機会を増やします、さらに下水に流すことで他の人が触れる可能性が増加します。これらのことが、何を意味しているのでしょうか、また、安全という目で見た場合問題ないのでしょうか?
 今回は、血液を媒介する感染症のリスクという観点で布ナプキンの安全性について考えてみます。


■血液媒介性感染症

 血液が原料である止血剤フィブリノゲンによる薬害C型肝炎は社会的な問題になっています。これはC型肝炎に感染した人の血液を使って作った血液製剤であるフィブリノゲンの中にC型肝炎ウイルスが混入していて、出産時に止血剤として使われたため母体に感染したというものです。
 C型肝炎に感染しても、自覚症状は少なく、長期間感染に気づかないことが多いのですが、やがて肝炎から肝硬変、そして肝臓がんに進行します。肝臓がんは肺ガン、胃ガンに次いで死亡数が多いがんです。国立がんセンターによると、肝臓がんの原因の80%がC型肝炎、15%がB型肝炎によるものとされています1)

 血液媒介性感染症はC型肝炎だけでなく、B型肝炎、エイズ、梅毒などが知られています。C型肝炎感染者は150万人、B型肝炎感染者は150万人、エイズは厚生労働省に報告されている患者数は1万人程度ですが、実際の感染者はその数倍から10倍以上と推定されています。このように、肝炎ウイルス感染者は300万人以上とされています。この300万人という数字は決して小さいものではありません。日本人の約40人に1人ということになります。自分の周り、家族、職場、学校関係者、同じマンションや町内の人40人に1人と考えると、自分とは無関係ではないことが分かります。しかし、C型肝炎で治療を受けている人は5万人に留まっています。
 つまり最も問題なのは

    自分がC型、B型肝炎、HIV などのウイルスに感染していることに気づいていない

ことです。そして、気づかないうちに、周りに感染を広めている可能性があることです。

□ 感染症の感染経路 □

 B型肝炎、C型肝炎、エイズなどは、主として血液を媒介して感染します。厚生労働省によると、B型肝炎の主な感染経路は以下の通りです2)

・注射針・注射器をB型肝炎ウイルスに感染している人と共用した場合
・B型肝炎ウイルス陽性の血液を傷のある手で触ったり、針刺し事故を起こした場合(特に、保健医療従事者は注意が必要です。)
・B型肝炎ウイルスが含まれている血液の輸血、臓器移植等を行った場合
・B型肝炎ウイルスに感染している人と性交渉をもった場合
・B型肝炎ウイルスに感染している母親から生まれた子に対して、適切な母子感染予防措置を講じなかった場合(ただし、高力価HBsヒト免疫グロブリン:HBIGとB型肝炎ワクチン:HBワクチンを正しく用いて母子感染予防を行えば、感染することはほとんどありません。

 なお、フィブリノゲン(現在は製造中止)のような血液製剤による感染も報告されています。輸血については、現在はウイルス検査が徹底されているので新たな感染はほとんどないとされています。予防接種については、以前は注射針を使い回しで使われていたので感染が広がったとされますが、現在は使い捨て注射針に変更され新たな感染は起こらないとされています。
 いずれにしても、感染者の血液や体液との接触 が主な感染経路です。

 患者からの聞き取り調査では過半数は原因不明とされています。つまり、感染経路はまだ完全には解明されてはいないということです。

□ B型肝炎の感染力 □

 B型肝炎は、HIVやC型肝炎に比べて感染力の強い感染症ですが、厚生労働省は以下のような感染例をあげています3)
原文のまま引用しました。

詳Q57: B型肝炎ウイルス(HBV)陽性の血液が手指、床、器具などに付着した時は消毒用アルコール(酒精綿)で拭き取ればよいですか?
詳A57: HBV感染予防のためには、消毒用アルコール(酒精綿)で拭き取っただけでは不十分であることが立証されています。
 1980年代に、ある中学校で貧血検査を行なった際、その都度酒精綿で拭いながら同一の穿刺針を用いて耳朶採血をしたところ、HBe抗原陽性のHBVキャリアの生徒を起点として、その後に並んだ6人の生徒にHBVの感染がおこったという事例が報告されています(亀谷、他、1981)。7人目以降の生徒にHBVの感染がおこらなかったのは、消毒用アルコールによる感染性の不活化効果より、むしろ穿刺針に付着したHBVの量が酒精綿による拭き取りによりその都度減少し、感染に必要な量を下回るに至ったのではないかと想定される事例です。なお、この事例では、感染したHBVの株(サブタイプ)が感染源となったHBVキャリアの株と同一であったことから、HBV感染の因果関係が立証されています。
 血液が床などに付着した場合には、次亜塩素酸ナトリウム液を軽く染ませた雑巾で拭き取った後に、通常の雑巾で拭き取っておくことが必要です。消毒用アルコール(酒精綿)による拭き取りは、HBVの感染予防のためには有効ではないことに留意しておくことが大切です。

 この事故例は、私も感染症への認識を改めさせられるほどの衝撃でした。これは針で耳たぶをほんの少し刺して、血液を絞り出して貧血検査を行うものです。用いた針は専門の医療従事者が気を付けて扱い、毎回アルコールの付いた綿で消毒していたにもかかわらず、6人に感染を広めてしまったというものです。針に付着したウイルスはごくごく微量であったはずです。
 この事故から学ぶ点は、感染症ウイルスを含んだ血液の取扱は一般に考えられている常識よりずっと慎重に行う必要があるということです。

  参考情報
  1) 国立がんセンター肝細胞がん
  2) 厚生労働省 B型肝炎について 概要版
  3) 厚生労働省 B型肝炎について 消毒


布ナプキンと感染症

 紙ナプキンと布ナプキンの決定的な違いは、紙ナプキンが焼却処分されるのに対して、布ナプキンは洗うことによって繰り返し使用されることです。紙ナプキンも血液を手に付けるという失敗はありますが、布ナプキンに比較してその頻度は少ないと考えられます。
 布ナプキンは使用後、
 (1) バケツなどの容器につけ置きする
 (2) 手で洗い、排水を洗面所などに流す
 (3) そのまま手ですすぐ、または洗濯ネットに入れて他の洗濯物と一緒にすすぐ
 (4) すすぎの排水も処理しないまま流す
 (5) すすぎが終わったら特に消毒することなくそのまま干す
といった処理がされます。また、布ナプキンは紙ナプキンに比較して血液の吸収力が劣るので、ショーツやアウター、シーツなどを血液で汚すことが多くなり、やはり血液に触れる機会が増えます。
 紙ナプキンの場合、通常血液を家族や他人が見たり、触れたりすることなく処理されますが、布ナプキンの場合は血液が家族や、他の人に触れる機会を増やしてしまいます。もし、布ナプキンに染みこんだ血液に感染性のウイルスが含まれていた場合、どのような問題が考えられるのでしょうか?

ご注意 (必ずお読みください)

 これ以降に書かれている内容は、感染症ウイルスに感染した、または感染の可能性のある血液が付着した布ナプキンについて述べたものです。読む前に、ご自分が関係するかどうかはよくお考えの上お読みください。ウイルス検査を行って、陰性(感染無し)の場合は、全く心配する必要はありません。本記事は、いたずらに一般消費者を混乱させることが目的ではありません。あくまで、布ナプキンにに付着した感染性の血液の問題点を示し、将来におこるかもしれない事故を未然に防ぐことが目的です。
 


■生理用ナプキンは感染性廃棄物

 病院で使用された血液の付着したガーゼ、注射針などは、患者の持つ病原体と接触している可能性があり、生物学的な危険(バイオハザード)に属するリスクを併せ持つことから、医療廃棄物(感染性廃棄物)として厳重に管理され、オートクレーブ(高温、高圧滅菌)や焼却で処理されています。また、病院で使用された器具や、患者の血液が付着した手術着なども、厳重に管理され、消毒・滅菌処理が行われています4)
 家庭で発生する生理用ナプキンのうち感染性ウイルスに汚染されたもの(または汚染の可能性があるもの)は、この感染性廃棄物に準じて処理されるべきと考えられます。現在の主流である紙ナプキンの処理は、血液に触れないように折りたたまれて、トイレ内のゴミ箱に保管、燃えるゴミとして処理されています。この方法だと、血液が人に触れることもなく安全に処理されています。
 しかし、布ナプキンの場合はどうでしょうか?布ナプキンに付着した血液が感染性廃棄物であるという認識を持つ人はほとんどいません。布ナプキンを紹介している個人のサイトやブログ、布ナプキン販売店でも、感染症について触れているところはほとんどありません。布ナプキンは、最近口コミやインターネットで広がり、ユーザが増えています。事故が起こる前に、多くの人がこの問題を知る必要があります。

  参考情報
  4) 文部科学省 医療機関等におけるエイズウイルス感染の予防について


■布ナプキンによる感染経路

 布ナプキンも使用することで、今までになかった感染経路が考えられます。たとえば以下のようなものです。
 (1) バケツを誤って転倒させ、血液を床などに広げる。
 (2) 子供が興味で中身を触る。
 (3) 洗濯排水の処理がずさんで、洗面台にウイルスを含んだ排水が付着すると、家族が触れる可能性が高い。
 (4) 他の洗濯物と一緒にすすいだ場合、洗濯物や洗濯機がウイルスで汚染される。
 (5) こぼれた水を雑巾で拭くと、雑巾が汚染され、その雑巾を使った人がウイルスに汚染される。
 (6) 布ナプキンを手袋を着けずに手洗いすると、手がウイルスに汚染される。石けんを使って丁寧に洗ったら大部分は除去できるが、
    簡単に水洗い程度ですました場合、ウイルスの残留が考えられる。
 (7) その手で食事を作った場合、食品がウイルスに汚染される。通常、食品から感染することは少ないが、虫歯や口内炎があった場合感染確率は高くなる。
 (8) 同様にその手で子供の世話をした場合、健康な皮膚はウイルスを通さないが、傷のある場合、アトピーなどでダメージを受けた皮膚からはウイルスが
    侵入する可能性が高い。

 布ナプキンは、最近普及しだしたもので、布ナプキンによる感染の可能性については、まだ研究されていません。しかし、「研究されていない」、「感染例が報告されていない」から感染することはないという話とは別です。
 厚生労働省はB型肝炎の感染防止について以下のように示しています5)

詳Q23: B型肝炎ウイルス(HBV)は家庭内で感染しますか?
詳A23: 以下のようなことに注意していれば、家庭の日常生活の場でHBVに感染することはほとんどないとされています。
1. 血液や分泌物がついたものは、むきだしにならないようにしっかりくるんで棄てるか、流水でよく洗い流す
2. 外傷、皮膚炎、鼻血などは、できるだけ自分で手当てをし、また手当てを受ける場合は、手当てをする人に血液や分泌物がつかないように注意する
3. カミソリ、歯ブラシなどの日用品は個人専用とし、他人に貸さないように、また借りないようにする
4. 乳幼児に、口うつしで食べ物を与えないようにする
5. トイレを使用した後は流水で手を洗う

 いずれの注意点も、血液が他人に触れないよう十分に対策することを述べています。布ナプキンを使う以上、1.の注意は守られていません。2.についても、布ナプキンに付着した血液は他人が触れることがあるのでNGです。
 そして、B型肝炎の感染力については先に述べたとおりですが、B型肝炎は、ごくごく微量の血液で感染する可能性があります。布ナプキンをつけ置きしたバケツの水は何万人もの人を感染させる潜在力があることを忘れてはいけません。

  参考資料
  5) 厚生労働省 B型肝炎について 感染と予防


■布ナプキンによる環境汚染

 ノロウイルスやO-157による飲料水、食品汚染の記憶は新しいと思います。東南アジアで生水を飲んだ日本人が腹痛を起こす原因の多くは、飲料水中のウイルスや細菌であるとされています。
 日本においても、限られた水の有効利用を進めるため、都市部では下水が流れ込んだ水を浄化して水道水にするのは日常的に行われています。しかし、再利用の頻度が増えて、汚染度の高い水を利用しなければならない、水の浄化に限られた時間、限られた方法しかかけられないこともあり、現実的に水道水からウイルスが検出されています。また、ウイルスは非常に小さいので、通常の家庭用浄水器では除去できません。

 感染性の血液が環境に出る可能性はどこにあるのでしょうか?大けがで出血した場合を除いて、家庭では通常月経血が量的に最も多く環境に出ると考えられます。紙ナプキンの場合は焼却処理されるので問題はないのですが、布ナプキンの場合、洗濯することで雑排水として家庭の外に流れ出します。その他の例として、トイレに流す、浴室で流すなどが考えられます。これらの中で最も量が多いのは布ナプキンに付着した血液です。これは、従来焼却処理していた血液を、公共水域に流すという新しい汚染経路と考えられます。

 家庭から出た排水はどこに行くのでしょうか?
1.下水処理場が普及している地方(全体の約70%) 洗濯排水(雑排水)は下水処理場に、トイレの排水も同様に下水処理場に流れ込み、処理されて川に放流。
2.下水処理場のない地方(1) 洗濯排水(雑排水)とトイレ排水はまとめて合併処理浄化槽で処理されて放流。
3.下水処理場のない地方(2) 洗濯排水(雑排水)は無処理のまま川に放流、トイレ排水は単独浄化槽で処理されて一部放流、汚泥は処理場で処理。
4.下水処理場のない地方(3) 洗濯排水(雑排水)は無処理のまま川に放流、トイレ排水はタンクにため、バキュームカーでし尿処理場に集めて処理。

 トイレ排水を直接放流している場所は少なく、何らかの形で処理されているので、適切に管理されていればトイレに流したウイルスが環境に流れ出す確率は低いと考えられます(ただし、浄化槽の管理不十分で汚水が流れ出したり、タンクの破損による地下水汚染はあります)。むしろ問題なのは、無処理のまま流される洗濯排水(雑排水)です。下水道の普及していないこのような地方では大きな上水処理場もないことが予想され、河川水を簡単に浄化した水や井戸水の利用も多いと考えられますが、水に感染性ウイルスが混入した場合の影響も大きくなります。事実、ノロウイルスも生活排水による飲料水汚染が原因であることが報告されてます。ノロウイルスに汚染されるような環境では、同時に肝炎ウイルスにも汚染されている可能性があります。ノロウイルスは食中毒という形で短期的に症状が現れ、治療によって完治しますが、肝炎ウイルスの感染は長期間気づくことがなく、やがて肝臓がんに進行します。
 下水道が普及している都市部でも、何度も何度も水を再利用して使うことで、ウイルスの完全除去は難しくなります。

 現在、水道法では水道水に含まれる一般細菌と大腸菌は検査されていますがウイルスは検査されていません。しかし、研究段階では水道水中からウイルスが検出されています。水道水中にどのような種類のウイルスがどれくらいの濃度で存在し、その量が健康リスクにどの程度影響するかといった研究は最近始まったばかりです。やがて、それらのリスクが明らかになり、家庭からの感染性血液の放流が問題になるかもしれません。しかし、それまで待っていると、不特定の人に感染を広げる可能性も否定できません。私たちが今できることは、感染性のウイルスを家庭から環境に出さないこと、ウイルスによる環境汚染を未然に防ぐことです。

水道水のウイルス汚染
飲み水がウイルスで汚染していたら
海外生活と水 病原体


正しい知識を身につけ、正しい行動をすること

 私たちは、知らないものに対して恐怖を感じ、恐怖のあまり間違った行動をとることがあります。感染症はあまり身近なものとして考えられてきませんでしたが、決して他人事ですまされることではありません。正しい知識を身につけ、冷静に正しい行動をとることが必要です。
 布ナプキンの問題でも、必要以上におそれることはなく、何が正しくて、何が間違っているか、何をするべきかを考えれば、おのずと行動は決まってきます。

□ 正しい感染症の知識を身につける □

厚生労働省 感染症情報
厚生労働省 B型肝炎について
厚生労働省 C型肝炎について
国立感染症研究所
財団法人 ウイルス肝炎研究財団
HIV医療機関内感染予防対策指針
エイズ予防情報ネット
広島県肝炎予防対策計画


□ 自分が感染しているかどうかを確かめる □

 これは、ウイルスに感染している、していないで全く異なります。上記の情報を読むと、自分がウイルスに感染しているか、感染するような行動をとったかどうかが分かるので、まず自分を知ることから始めてください。

1.ウイルスに感染していない人
  今は、妊娠・出産時に通常HIVや肝炎ウイルスの検査が行われています。もし、感染が明らかになると医師から知らされるので気づくはずです。もし、医師から何も言われていない、または感染症にはかかっていないといわれた場合は安心です。その後、上記「感染症の感染経路」で示したことを守って、常識的な家庭生活を送っている中で感染することはまれとされているので何の心配もいりません。
 布ナプキンも感染の心配がないので普通に使って問題ありません。子供と一緒に入浴しても何の問題もありません。

2.ウイルスに感染していることが明らかな人
 医師相談し、保健指導を受けてください。感染症を拡大しないアドバイスを守ってください。血液が家族や他の人に触れないよう十分注意してください。血液がこぼれたら、直ちに消毒してください。
 布ナプキンは上に述べたような感染リスクが考えられますので使用はお勧めできません。もし、どうしても使用する場合は、血液が漏れ出さないよう十分に注意して使用し、下に示した「布ナプキンの安全な洗い方」を守ってください。

3.感染しているかどうか分からない人
 このケースが一番難しいのですが、感染の心配がある場合は病院でウイルス検査を受けてください。HIV感染は保健所でも検査できます。
 薬害C型肝炎の問題を他人事と考えていないでしょうか?フィブリノゲンは平成6年以前に多くの病院で止血剤として使われていました。平成6年以前に出産した人(現在40代から50代の方)は、出産時に投与されたかもしれません。厚生労働省は、当時フィブリノゲンが使われていた病院名を公開し、C型肝炎ウイルス検査受診を呼びかけています。気になる方は一度調べてみてください。
 布ナプキンも最悪の場合を想定して、使わないに越したことはないのですが、もし使う場合は細心の注意を払い、2.のケースと同様に扱ってください。また、生活全般においては、血液が家族に触れないように注意するほうがよいと考えます。

  厚生労働省 C型肝炎ウイルス検査受診の呼びかけ(フィブリノゲン製剤納入先医療機関名の公表について)


■ 布ナプキンの安全な洗い方

 販売店や個人のサイトでの説明では、布ナプキンはセスキ炭酸ソーダ(アルカリウォッシュ)などのアルカリ剤につけ置きしてから洗うことが多いようです。これは、血液がアルカリで溶けやすくなるからです。しかし、セスキにはウイルスを消毒する力はありません。ウイルスが感染した血液のついた布ナプキンをつけ置きした場合、布ナプキンや水の中でウイルスは生き続け、洗う時、すすぎの時に手、洗面台、洗濯機などを汚染し、環境に流れ出します。ここでは布ナプキンを安全に洗う方法を説明します。

(1) 用意するもの @次亜塩素酸ソーダを含んだ塩素系漂白剤(ハイター、キッチンハイター、ブリーチなど)。これらの成分は、次亜塩素酸ソーダが5〜6%、アルカリ剤として水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)が添加されています。
Aふたのできるバケツなどの容器
(2) つけ置き液の作り方
 
バケツなどに水を入れて、水1リットルにつき20mL(キッチンハイターの場合キャップ1杯弱)の塩素系漂白剤を加えます。作る量は、布ナプキンが十分につかるだけの量を用意してください。
 注意:次亜塩素酸はお湯で作ると早く分解してしまうので、水で作ってください。
(3) 布ナプキンをつけ置きする  使用済みの布ナプキンは速やかにバケツに入れて、つけ置きします。厚手のナプキンや血液が多くついたものは消毒液が内部までよく染みこむようにゴム手袋をつけて何度か押し洗いしてください。そのまま1時間以上つけ置きしてください。なお、血液が多いときや、ナプキンが多くたまってくると消毒液が薄まって効果が落ちてくるので、消毒液を取り替えてください(つけ置き1時間以上たってから)。また、時間がたつと消毒液が分解してしまうので、1日1回は必ず交換してください。
 1時間以上つけ置きすると、ウイルスは消毒されているので、もう布ナプキンは安全です、排水を流しても問題ありません。
(4) 布ナプキンを洗う  塩素系漂白剤には、酸性になって有毒ガスが発生するのを防ぐためアルカリ剤(水酸化ナトリウム)が含まれています。水酸化ナトリウムはセスキよりずっと強いアルカリ剤で、ここで示したつけ置き液のpHは10〜11です。つまり、つけ置き液は、消毒と同時に血液汚れも落とし、シミなどを漂白するという一石三鳥の働きをしてくれます。
 つけ置き液は強いアルカリ性なので、必ずゴム手袋をして布ナプキンを手洗いしてください。
 なお、血液が多い場合でシミ等が残る場合は、つけ置きが終わった後、石けんなどで洗ってください。
(5) すすぎ  すすぎは手で行っても、洗濯機を使ってもかまいません。塩素臭が気になるなら、軽くすすいだ後、洗面器にビタミンC(サプリメントのカプセルの中身でよい)を溶かした液を用意して、布ナプキンをつけると、瞬時に塩素は中和されます。そのあとすすいでください。
(6) 干す  干して乾かすと、次亜塩素酸ソーダは食塩になります。

塩素系漂白剤について
 「買ってはいけない」などで塩素系漂白剤は毒薬のような扱いをされ、一部の石けん販売店でも目の敵にされています。石けんユーザも塩素系漂白剤は危険という印象を持たれている方が多いのではないでしょうか。
 確かに、塩素系漂白剤は、酸性の洗剤やクエン酸、酢などと混ぜると有毒な塩素ガスを発生して大変危険です、また、液は強アルカリ性なので、直接皮膚に触れると危険です。しかし、これらのことに十分注意して使うと、消毒・滅菌の効果は酸素系漂白剤や消毒用アルコールよりはるかに優れています。また、ちゃんとすすいで乾かせば、次亜塩素酸ソーダは食塩になって安全です。危険なものは残留しません。
 塩素系漂白剤は漂白力が強いので色物には使えません。布ナプキンは色や柄が派手なものも多く、塩素系漂白剤で脱色されるかもしれません。しかし、この漂白力の強さは、ウイルスを消毒・滅菌する力の強さでもあります。安全をとるか、デザインをとるかの選択になります。

 厚生労働省 感染症法に基づく消毒・滅菌の手引き
 WHO HIV不活化実験に基づく消毒方法


■布ナプキンの情報を発信している個人サイトの方へのお願い

 生理のかぶれやかゆみに悩んでいる方で布ナプキンを使うことで改善された方は確かに多いと思います。その経験から布ナプキンのサイトやブログで情報を公開されるのはよいことだと思いますが、本サイトで公開している感染症のリスクについて一度考えてみてください。
(1) 布ナプキンのいいところばかり書かずに、吸収力が劣る、漏れやすいなどの欠点も公開してください。
(2) 感染症患者が使う場合の注意事項をはっきり書いてください。
(3) 「生理痛が軽くなる」、「生理が短くなる」、「冷えが改善される」などの表現は薬事違反と受け取られることがあるので注意してください。
(4) 「紙ナプキンは化学物質を使っているから子宮筋腫や子宮内膜症の原因となる」などの科学的根拠のない表現は控えてください。
(5) 布ナプキンを必要とする人が、正しい知識を身につけ、感染症などを拡大しないように安全に取り扱える方法を公開してください。
(6) 布ナプキンの安全な洗い方を公開してください。

■布ナプキン販売者へのお願い

 この「布ナプキンの安全性」の記事を公開してから、布ナプキン販売店関係者と思われる方から、記事への批判、内容の書き換え依頼の匿名メールが多く届きました。また、掲示板にも、記事を批判する書き込み、中傷や掲示板荒らしと考えられる投稿も続きました。
 しかし、販売店の方も冷静になってよく考えてください。製造物責任法(PL)法では「製造物の欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる」と規定されています。布ナプキンを間違った使い方をすると感染症を引き起こす原因となりうることは本記事で書いたとおりです。
 10000人のお客さんに布ナプキンを販売したとすると、約250人の方が感染症のウイルスに感染していて、ウイルスに感染した血液を家族や他の人が触れる環境に置くことになります。販売者としてこのような状況をどのように考えられるのでしょうか。「それは感染症の問題で、布ナプキンの問題ではない」、「因果関係がはっきりしたわけではない」と言い切れるのでしょうか。布ナプキンを販売するときに感染症について何の説明もせず、購入した方の子供が布ナプキンに触れて感染した場合、責任が取れるのでしょうか?
 布ナプキンを必要としている人もいます。そのような方に、取扱方法を正しく説明し、使用者やその家族に事故が起きないように十分配慮してくださるようお願いします。また、現在生理用ナプキンは、医薬部外品に指定され、その製造や原料には規制があり、一定の品質を確保されたものだけが生理用ナプキンとして販売されています。しかし、布ナプキンはそれらの基準を満たしていないため、生理用ナプキンとしては認められず、雑貨として販売されているのが現状です。布ナプキン製造者の方は、布ナプキンを医薬部外品として登録申請して、より品質の高い製品として販売してください。そして、安全面も考慮したきちんとした取扱説明書をつけてください。


■賢者は歴史に学び愚者は経験に学ぶ

 「布ナプキンの安全性」を書くきっかけとなったのは、薬害C型肝炎と薬害エイズの話です。いずれも感染性のウイルスを含んだ血液が原因ということは今でははっきりしています。しかし、当時、「因果関係がはっきりしない」、「感染リスクは低い」という主張から対策が遅れ、罪のない多くの患者が出てしまいました。さらに、歴史を振り返ると、水俣病も長い間水銀が原因とは認められず、対策が遅れてしまいました。

 布ナプキンの問題も新しくて因果関係ははっきりしていません、取り越し苦労で終わることかもしれません。しかし、感染性血液の危険性は明らかになっており、布ナプキンを使うことでその血液が家族や他人に触れる機会を増やすことは否定できません。因果関係がはっきりしてから考えるでは遅すぎます。過去の歴史に学び、想定される将来のリスクを予測し、「より安全サイドで考える」、「疑わしは罰する」といった「予防原則」の考えで、安全性を熟慮し、法律による規制を待つのではなく、自分たちの身は自分たちで守っていく姿勢が必要ではないでしょうか。


■謝辞

 本記事を改訂するに当たり、多くの方からアドバイスや批判をいただきました。特に掲示板では、過去に例がないほど熱い議論が繰り返され、立場の異なる多くの人の考えを知ることができました。それらの意見を参考にさせて頂いたことを深く感謝します。



その他の参考資料

医療廃棄物
血液媒介性感染症
日本女医会
ウイルス性肝炎