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石けんと合成洗剤


■界面活性剤

 石けんや合成洗剤のように、本来溶け合わない水と油を溶けるようにする性質を持つものを界面活性剤といいます。
界面活性剤は下の図のように、1つの分子の中に油に溶ける部分(親油基)と水に溶ける部分(親水基)を持つ化合物のことです。
 界面活性剤は油の中に水に溶けない部分を差し込んで、油の表面に水に溶ける部分を覆うような形になって、油を水に溶けるようにします。この状態をミセルといいます。



主な界面活性剤をまとめてみました。表の構造で赤で示した部分が油に溶ける「親油基」、青で示した部分が水に溶ける「親水基」です。
 

分 類

系 列

種 類

構 造

陰イオン系

脂肪酸系

高級脂肪酸塩(石けん)

R-COONa

硫酸エステル系

アルキル硫酸エステル(AS)

R-OSO3Na

アルキルエーテル硫酸エステル(AES)

R-O(CH2CH2O)nSO3Na

スルホン酸系

直鎖アルキルベンゼンスルホン酸(LAS)

R-C6H4-SO3Na

α-スルフォ脂肪酸メチルエステル(α-SF)

R-CH(SO3Na)COOCH3

α-オレフィンスルホン酸(AOS)

R-CH=CH(CH2)nSO3Na

アルカンスルホン酸(SAS)

R-SO3Na

非イオン系

脂肪酸系

脂肪酸アルカノールアミド

R-CON(CH2CH2OH)2

高級アルコール系

ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)

R-O(CH2CH2O)nH

アルキルフェノール系

ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(APE)

R-C6H4-O(CH2CH2O)nH

こうして並べてみると、石けんも合成洗剤も油に溶ける部分(親油基)は同じような形ですが、水に溶ける部分(親水基)が異なっています。石けんはカルボキシル基(COO)であるのに対して、合成洗剤はスルホン基(SO3)やエーテル(-O-)となっています。


■石けんと合成洗剤はどこが違う?

(1) 原料が違う
 石けんの原料は動植物製の油脂です。ヤシ油、牛脂、ラード、なたね油、大豆油、米油、オリーブ油、パーム油、天ぷら廃油からも作ることができます。
合成洗剤は主として石油から作られます。LASは代表的な合成洗剤ですが、生分解性が他の合成洗剤や石けんに比べて悪いため、大手洗剤メーカの合成洗剤はAS,AES,AEなどを使うことが多くなっています。外国製の安売り洗剤はいまだにLASが使われています。

 ここで注意しなければならないのは、最近天然油脂が原料の合成洗剤が増えていることです。ヤシの実洗剤やオーガニック洗剤、大手の洗剤でも「ヤシから作った」とうたうものが多くなっていますが、これらの洗剤の多くはパーム油を原料にして作ったASやAEなどの合成洗剤です。石油が原料であろうと、天然油脂が原料であろうと、できたものは同じ合成洗剤です。

(2) 構造が違う
 石けんは天然油脂を苛性ソーダで加水分解して作られます。構造は「脂肪酸ナトリウム」とよばれ、特徴は水に溶ける部分(親水基)がカルボン酸である点です。カルボン酸は弱い酸です。洗剤として使うときに、水の中に含まれるカルシウムなどの硬度成分と結合して石けんカス(金属石けん)になり、界面活性剤としての働きを失ってしまいます。これは、石けんにとって欠点であり、同時に長所であります。濃い濃度ではきちんと界面活性剤として働き、薄まったら働きを失うので、手に優しく、環境にでたときも生物に悪影響をを及ぼすことは少ないのです。

 一方、合成洗剤は石けんの欠点を補う目的で開発されました。特に硬度の高い欧米では石けんは使いにくい、また食料である油脂と競合するために、石油を原料に新しい界面活性剤が次々と開発されました。LASは代表的な合成界面活性剤ですが、水に溶ける部分が硫酸(スルホン基)で強い酸です。硫酸は水中の硬度成分と結合することが少ないので、石けんで問題となった石けんカス(洗剤カス)ができにくいのが特徴です。ただし、洗剤カスができないということは、濃度が薄くなっても界面活性剤としての力を失わないということで、衣類への残留が肌の刺激になったり、環境生物への影響も懸念されます。

(3) 添加剤が違う
 洗濯用粉石けんと合成洗剤の成分の例を示しました。粉石けんの成分はこのように簡単です。石けん分以外に含まれているのは、水をアルカリ性にして石けんの働きを高める炭酸塩(炭酸ナトリウム)などのアルカリ剤だけです。

 一方合成洗剤には界面活性剤以外にも、アルカリ剤、カルシウムなどを封鎖して洗剤カスの発生を抑える水軟化剤、洗浄作用を強める工程剤、汚れの再付着を防ぐ分散剤、色を白く見せる蛍光増泊剤、タンパク質などの汚れを分解する酵素、そして香料などが含まれています。このような添加剤のおかげで、合成洗剤は高性能化し、標準使用量は石けんの半分以下です。しかし、肌の弱い方にとって、添加物が多いということはそれだけ刺激になる可能性が増えるということす。

           

■石けんか合成洗剤か?

 合成洗剤は石けんに比べて、@硬度の高い地域でも使いやすく、A水に溶けやすい、B使用量が少なくてすみ、C安価であるなどの理由で、あっというまに世界中に広がりました。

 石けんか合成洗剤か? この議論は公害が問題となっていた1970年代から繰り返し続けられています。30年前の合成洗剤は生分解性も悪く、添加物であるリン酸塩が富栄養化の原因とされ、消費者に目の敵にされていました。合成洗剤の種類は多く、生分解性が悪く、生物への毒性が比較的高いものもありますし、一方で、生分解性や毒性も石けんと変わらないものもあります。合成洗剤を一派ひとかけらにして「合成洗剤はすべて危険」などと発言される方もいますが、30年前ならともかく、現在では安全に関する研究も進歩していますし、資源問題も含めた環境問題を総合的に考えていかなければなりません。

 このHPをご覧になっている方の多くは石けん使用者だと思いますが、なぜ自分が石けんを使いたいか、目的をはっきり持ってください。本に書いてあったから、何となく環境に良さそうだから、何となく体に良さそうだから・・・はじめはこれでもいいのですが、石けんの長所、短所をきちんと知って、上手に使いこなしてもらいたいと思います。
 
 
項 目 石けん 合成洗剤
溶けやすさ × 特に冷水に溶けにくい
洗浄力(ジュース、ケチャップ等) ○ 水でも落ちる
    (皮脂汚れ) ◎ 日常の汚れには強い ○ 石けんには劣る
    (タンパク質汚れ) ○(酵素入りで浸け置きすれば)
    (石油系の汚れ) ○ AEは石油系汚れに強い
石けんカスのできやすさ × 石けんカスは最大の欠点 ○ 硬度の高い水でも使いやすい
標準使用量 × 40g(水30リットルに)  
  硬度の高い地域ではさらに
  使用量が増える
○ 15〜20g(水30リットルに)
値 段 × 600〜800円 ○ 200〜500円
皮膚への刺激 ○ 添加物が少ないのも有利 × LAS
△ AS、AE
分解性 ○ AS
△ AE
× LAS
魚毒性 ◎ 環境中では石けんカスになり、
   毒性は低い
△ LASやAEは比較的毒性が強い
有機物負荷 × 使いすぎは環境負荷を与える ○ 有機物負荷は石けんの5分の1