Home/

手作り石けんのウソ、ホント


■手作り石けんのウソ、ホント

 手作り石けん・化粧品がブームになって、石けん作りを始める人が増えています。でも、日本では家庭で手作り石けんを作るという習慣は始まったばかりで、参考になるはずの本の中には、科学的にみて疑問を感じる情報もあります。今、石けん作りで、常識のように伝えられている情報について、少し考えてみましょう。


手作り石けんはグリセリンがたっぷり残っているから保湿力が高い?

 どんな手作り石けんの本や、手作り石けんを紹介するホームページにも、「手作り石けんは、市販の石けんでは除かれるグリセリンが、石けんの中に残っているから保湿力が高い」と書かれています。一見もっともらしい説明ですが、よく考えてみると疑問が生じます。グリセリンはとても水に溶けやすい性質を持っているので、石けんで洗顔後、すすぎの時に全部流れてしまいます。グリセリンだけ顔に塗って、すぐに水で洗い流しても保湿間は得られません。また、市販の液体石けん(カリ石けん・石けんシャンプー)にはグリセリンが残っていますが、それらで洗顔しても、手作り石けんのような保湿力はありません。
 手作り石けんに保湿力があるのは、未反応の油脂が石けんの中に残っていて、洗顔後その油脂が皮膚に残るからです。また、グリセリンや油脂が適度に残っていることにより、純石けんより洗浄力が弱く、皮脂をとりすぎないのも保湿力を感じる理由です。



高価な油を使えばいい石けんができる?

 石けんを作るとき、化粧品やオイルマッサージに使う高価なオイルを使うと、いい石けんができると考えられる方も多いと思います。しかし、実はそういうものではないのです。例えば食用のスイートアーモンドオイルは石けん作りに人気のある高級オイルですが、その脂肪酸組成をみると、オレイン酸が66.3%、リノール酸が22.3%となっています。ところが、オリーブオイルを80%、グレープシード油を20%の割合で混ぜると、スイートアーモンドオイルとほぼ同じ脂肪酸組成になり、できる石けんの性質、使用感は、まず見分けることができないくらい似たものになります。高価な油は、生産量が少ない、精製に手間がかかるなどの理由で高価なのです。つまり、高価な油を使わなくても、いい石けんはできる。逆に、高価な油を使っても、油の組み合わせによっては、無駄になるということです。どういう脂肪酸組成が自分にとって理想的かを考えましょう。



石けんにハーブティーを入れても、効果はほとんどない

 ハーブソープも人気のある石けんです。しかし、多くのハーブソープは、作るときにハーブティーを使うだけ、あるいはエッセンシャルオイルを加えるだけです。このようなハーブソープは、あまりにハーブ成分の量が少なく、ハーブの持つ効能を生かしているとは言えません。ハーブの成分を十分に生かした石けん作りは別のアプローチが必要です。ハーブエキスを使った石けんや、大量のハーブを使った「本物のハーブソープ」作り方は別のページに説明しています。



卵石けんや牛乳石けんは本当に肌にいい?

 卵石けんや牛乳石けんは、名前からも肌に良さそうな印象を受けます。しかし、卵や牛乳は、最も失敗しやすい素材です。石けん作りに使う苛性ソーダの「苛性」とは、皮膚(タンパク質)を変質させるという意味です。卵や牛乳もタンパク質からできているので、苛性ソーダと触れたとたん変質して、発熱したり、固まったりします。その結果、できた石けんも固まりにくく、腐りやすいうえにタンパク質が分解したアンモニア臭がします。確かに、牛乳風呂や、卵白を使ったパックは肌や髪に優しいのですが、苛性ソーダで変質したタンパク質は、いわば「ゆで卵」のようなもので、肌や髪に優しいかどうかたいへん疑問です。



エッセンシャルオイルを大量に使うのは危険
 石けんに香りを付けるためにエッセンシャルオイルを使う方は多いと思います。しかし、エッセンシャルオイルには、アルカリに弱く、苛性ソーダに触れると加水分解して、においが無くなったり、他のにおいになったりする「エステル」という成分が多く含まれています。そのため、石けんに入れこもうと思うと、苛性ソーダに負けないくらい大量のエッセンシャルオイルが必要になるわけです。しかし、石けんは直接肌に触れるものなので、あまり大量にエッセンシャルオイルを加えるのは考えものです。エッセンシャルオイルの中には、皮膚に刺激があるものや、光に当たったらシミができやすいもの、妊娠中には使用を控えた方がいいものなどがあるからです。



オリーブ石けんは誰にとっても優しい石けんというわけではない

 オリーブ石けんは、手作り石けんの中でも人気のある石けんです。しかし、反面、油くさい、べとべとする、ニキビが増えると言った苦情も多い石けんです。手作り石けんは、石けんの中に原料油脂を10%程度残して作られることが多く、グリセリンを除くこともないので、市販の浴用石けん、無添加石けんより保湿力の高い石けんになりますが、オリーブ石けんは特に保湿力が高いため、洗顔後、皮膚にオイルを塗ったような状態になります。乾燥肌の人には、しっとりすると評判がいいのですが、脂性肌の人が使うとべたべたした仕上がりになり、使い続けると、常に肌に過剰のオイルがのった状態になって、ニキビの原因にもなります。手作り石けんを作るならば、まず、自分の肌質を知り、肌質にあった原料油脂を選ぶ必要があります。



おいしい水、ステンレス器具は使わない

 手作り石けんに使う水は、薬局などで手に入る精製水が良いとされています。では、ミネラルウォーターや湧き水のような「おいしい水」は石けん作りに使うことはできないのでしょうか? 答えは、「使わない方が良い」です。ミネラルウォーターをおいしく感じるのは、微量に含まれている鉱物成分(ミネラル)のおかげですが、この中に含まれる銅、マンガン、鉄、クロムなどの金属は、ごく微量でも触媒となって油脂の酸化を促進させます。おいしい水を使って石けんを作ると、酸化されやすい石けんができてしまうのです。ステンレスは鉄、クロム、ニッケルの合金で、石けん作りにステンレス製のボールや泡立て器を使うとこれらの金属が溶け出して、やはり酸化しやすい石けんができてしまい。ステンレス器具を使わない石けん作り、できあがった石けんの酸化防止、保存方法については別に詳しく説明します。



苛性ソーダは一滴で失明する劇薬!

 石けん作りに欠かせない苛性ソーダは、毒・劇物取扱法や薬事法で「劇物」と指定されている薬品です。石けんを作るときは濃度にして約30%の苛性ソーダ溶液を使いますが、このような高濃度の苛性ソーダ溶液はきわめて危険で、皮膚についたら激しく皮膚を侵し、ほんの1滴でも目にはいると失明のおそれがあります。はじめは、おそるおそる慎重に扱っていても、少し慣れてくると、誰でもちょっとした不注意をすることがあり、事故はこのようなときに起こります。このような危険な薬品を家庭に持ち込むのですから、相当慎重になった方がいいでしょう。この本では、安全に石けん作りを楽しめるよう、ペットボトルを使った石けんの作り方を紹介します。



廃油石けんで肌を洗うのはやめよう

 家庭から出る廃油を集めて石けんを作るとゴミを少なくできるので、環境にも肌にも優しい石けんになると言われています。しかし、酸化した油には過酸化脂質が含まれていて、皮膚に塗ると、炎症や色素沈着が生じるとの研究もあります。また、家庭から出る廃油の原料油脂はキャノーラ油、大豆油、紅花油、コーン油などですから、いずれも、なかなか固まらず、すぐに溶け崩れる石けんになります。廃油石けんは、液体石けんにして食器洗い、お風呂洗いなどに使う方がよいでしょう。



透明石けんは肌に優しくない

 透明の化粧石けんは、高級品のイメージがあります。パーム油、ココナッツ油、キャスターオイル(ひまし油)に、グラニュー糖とアルコールを加えれば、透明石けんを作ることはできます。しかし、透明にするため、使う油脂が限定されるので、できあがった石けんは汚れ落ち、泡立ちが悪く、肌にも優しいとはいえません。せっかくの手作り石けんですから、見栄えより質を選んだ方が良いでしょう。



「ジェル化」という不思議な言葉

 手作り石けんを作っている人の一部では、「ジェル化したらいい石けんができる」といわれています。
ん?「ジェル化」って何だろう?という疑問が生じます。ジェル化: jel, jelly, gel などを語源とする和製英語です。しかし、jelはjellyからもわかるように「ゼリー状の」という意味です。石けんがゼリー状になるのでしょうか?
 一部の人がいう「ジェル化」とは、手作り石けんでトレースが出た後に保温するとき、温度条件がいいときには透明の石けんができる、悪いときには半透明(マット状)の石けんができることをいうようです。そして、透明の石けんはいい石けんということらしいです。
 この時何が起こっているかというと、温度条件が良く、鹸化反応がうまくいくと、石けんがうまく結晶化して透明になる、しかし、うまくいかなかったときは不透明になっていると考えられます。ちょうど、氷を作るときに急速に凍らせると白い氷ができるのに、ゆっくり凍らせると透明な氷ができるのと似ています。
 つまり、一部で「ジェル化した」石けんとよばれているのは、うまく「結晶化した」石けんとよぶ方が正しいのではないでしょうか。「ジェル化」という言葉は科学的にも、あまり正しい使い方ではないと思います。